ドローン自動飛行による農薬散布への挑戦
昨年の7月、みかんの生産量予測ロジックを考案するため、園地にある約100本のみかんの木を対象にいくつの実が生るのかを調べに行ったことがあり、長時間ひたすらみかんの実を数え続けたことがあるのだが、夏の太陽が降り注ぐ園地の暑さが非常に体に堪えた。想像以上の暑さで、こんな暑さの中で農作業に日々取り組んでいる農家さんの大変さに頭が下がる思いだった。
夏には定期的に農薬を散布しなければならず、命に危険が及ぶほどの猛暑の中、防護服に身を包み、何時間もかけて園地に農薬を散布するのは、想像するだけでも耐えがたい。農薬散布にスプリンクラーを設置している園地もあるが、多くはまだ人が手作業で散布しているのが現状だ。
こういった農作業の負担の大きさはこのプロジェクトで取り組みたい課題の一つで、もしも農作業の負担を少しでも軽減できたら、農業は今よりもっと魅力的な仕事になるはずだ。
今、有田市の傾斜地にあるみかん園地では、農作業を軽減してくれる道具の一つとしてモノラックが導入されている。モノラックはレールの上に台車を走らせてモノを運搬できる機材で、収穫したみかんを運んだりするのに使用されている。
有田市のみかん園地は急勾配の傾斜地にあるものが多く、園地に向かう山道は小型自動車がギリギリ一台通れるくらいの狭い道で、移動には危険を伴い、相当な時間もかかる。そのため、モノラックは傾斜地にある園地では欠かせないものとして広く普及している。
このモノラックのように、広く普及させられる新しい技術はないだろうか?
そう考えてアグリテック(農業技術)の調査・検討を行った結果、ドローンにたどり着き、今年6月からドローンの農薬散布実験を行っている。
ドローンで農薬を散布している事例は多いが、傾斜地にある果樹園地での事例はきわめて少ない。そのため、有田での農薬散布実験は農業の可能性を切り開くものとして価値があると考えている。
実験は経験豊富なオペレーターによる手動操縦でドローンを飛行させて実施しているが、熟達したオペレーターでも傾斜地でのドローン操縦は高度や速度のコントロールが難しく、最初は散布ムラが生じたりして満足のいく結果が得られなかった。
そのため、ドローンを飛行させる速度や高さなどを何度も試行錯誤する必要があった。ドローンでムラなく散布できているかを確認するために、みかんの葉に感水紙を貼るのだが、急傾斜の園地では、散布前に感水紙を貼り、散布後に感水紙を回収するだけでも時間がかかり、みんなで汗だくになりながら実験を繰り返した。その結果、散布状態は大幅に改善されて、実用化に向け手ごたえを感じている。
もしも、将来的にドローンが導入されると、農薬散布にかかる時間の90%程度を削減でき、酷暑の中で農薬散布をしなければならない負担は大きく軽減されることが見込まれる。しかし、農家さんがドローンを運用することを考えると、熟練オペレーターでも難しい傾斜地でのドローン操縦を農家さんに行えるのかという不安が残る。
そこで、今日、朝からドローンの自動飛行実験に挑んだ。
自動操縦でドローンを飛行させることが出来れば、農家さんがドローンを操縦する必要がなくなるため、ドローンの運用面のハードルが低くなるはずだ。
今日の実験では農薬のかわりに水を散布して、自動操縦で傾斜地を飛行できるかということや、散布した水がムラなく果樹に付着するかを感水紙を利用して検証し、農薬の自動飛行散布の可能性を探った。実験結果の詳細な検証はまだだが、感触として可能性は大きいと感じている。
さらに、今日は昼からドローンのデモ飛行を実施し、いくつかメディアが取材に来てくれたり、農家さんも見学に来てくれ、今後、農業に新しい技術の導入するということに関心を持ってもらうためのきっかけになったのではないかと思っている。
まだ、最初の一歩。
ドローンをモノラックのように広く普及する技術に成長させることを目指して、これからも可能性を探り続けたい。
この記事を書いたメンバー
小林 慶太
有田市との協働プロジェクトリーダー
みかん農家の生産性向上・新規就農者支援スキームづくり担当